意思決定支援

過去の事故を“活きた知見”に。意思決定を支える検索システムの構築

業種
環境事業
企業形態
法人
相談部署
IT企画部
従業員数
3,500~4,000人
実施期間
2024年6月~2024年12月
予算
200~250万円/月(ラボ契約)
過去の事故を“活きた知見”に。意思決定を支える検索システムの構築
相談背景
  • 社内に蓄積された多数の事故事例データを有効活用できていない
  • 事故に関する情報は文章が似通っており、単語検索では意図した事故の抽出が難しい
  • ITやAI技術を活用し、事故の整理・検索や再発防止策の評価を実現したい
実施内容
  • ヒアリングを行い、文脈を考慮した事故データ検索システムの実現に取り組む
  • 検索結果の確認・評価を効率化するため、社内クラウドに簡易ウェブアプリを構築
  • あわせて、有識者が各検索手法の妥当性を評価できる体制も整備
  • 検索者の意図を汲み取った検索を目指し、ベクトル検索や生成AIなど複数の手法をPoCで検証
  • 検索速度と精度を両立するため、高速検索で候補を絞り、生成AIで精査する多段階検索を採用
  • 将来拡張を考慮し、プロンプト編集やチャット機能の検証も行った
結果
  • 実用性の高い事故事例検索システムを構築
  • 全社展開され、日々使用されるシステムとして定着
  • データドリブンな意思決定に貢献

相談背景 過去の類似事例の検索が難しく、蓄積された事故事例データの活用が進まない

プラント事業を営むお客様の品質管理部門より、「社内に蓄積された多数の事故事例を、ITやAIを用いて有効活用できないか」とのご相談をいただきました。

関係部署へのヒアリングを通じて、検索に関するさまざまな課題やニーズが明らかになりました。特に、新たな事故が発生した際には、過去の類似事故をすぐに見つけたいという要望が多く寄せられました。また、事故データは、事故の整理や再発防止策の評価といった業務にも活用したいというニーズがありました。それらを支える基盤として、効果的な検索の仕組みが不可欠であると考えられました。

 一方で、データベースは特定業界の事故事例で構成されており、固有の用語が多く使われているうえに文章表現も似通っているため、従来のキーワードベースの検索では、必要な情報にたどり着きにくいという声も多く聞かれました。

実施内容 検索意図を汲み取る事故検索の実現に向けたPoCと本番システム構築

業務で蓄積された過去の事故情報を有効活用するために、「検索者の検索意図を適切に汲み取り、有用な情報を抽出できる検索」が必要であると考え、システムの構築に取り組みました。

このシステムでは、単なるキーワード一致検索では困難な、類似事故か否かの判断や特定機器の不具合に対する文脈や構造までを考慮した情報検索の実現を目指しました。

PoCから本番システムの構築に至るまで、以下のステップで段階的にプロジェクトを推進しました。

ステップ1:検証環境の整備と評価体制の構築

PoCを効率的かつ実用的に進めるため、お客様のクラウド環境上に簡易ウェブアプリを構築し、利用者が検索結果を直接確認・評価できる環境を整備しました。次いで、実際の業務を想定した複数の検索文を準備し、有識者が検索結果の妥当性を評価できる体制を構築。これにより、検索結果の妥当性を定量的に把握できるようになりました。

こうした仕組みによって、現場の実態に即したスピーディーなフィードバックの収集が可能となりました。

ステップ2:検索手法の比較検討と多段階検索の採用

PoCでは、以下のような複数の検索手法を検証しました。

  • 単語ベースの検索(BM25)、ベクトル検索、およびそれらの組み合わせ:標準的な検索手法
  • 生成AIを活用し、検索文と対象事例の文脈評価を含む検索手法(根拠や類似度をあわせて提示)

標準的な手法は、検索処理は速いものの、事故データは文章が似通っていたこともあり、有識者の期待に応えられるレベルの結果は得られませんでした。 一方、生成AIを活用した検索では、速度こそ劣るものの、検索者の意図を汲み取った検索結果を得ることができ、妥当性の高い情報提示であるとの評価をされました。

これらの検証結果を踏まえ、標準的な検索で候補を絞り込んだ上で、生成AIによる精査を行う多段階型の検索システムを採用し、結果の妥当性と実用性の両立を目指しました。さらに、検索結果の妥当性の向上と将来的な拡張性を目的として、以下のような補完的な取り組みも並行して実施しました。

  • ユーザー辞書:専門用語を生成AIが正しく理解できるよう、事故データの末尾に辞書情報を付加
  • プロンプト編集機能:生成AIの判断基準や出力形式を調整可能とし、検索結果の柔軟性を向上
  • 検索結果に対する対話機能:検索結果を基に、生成AIとチャット形式でやり取りできるUIを開発・検証

これらの取り組みにより、検索結果の妥当性と柔軟性を両立し将来的な機能拡張にも対応可能な基盤構築の方向性を決定しました。

ステップ3:本番システム構築と現場主導の改善サイクル構築

PoCで構築したプロトタイプをベースに、UIや機能を整えた本番用の検索システムを開発しました。全社展開を見据え、品質と安定性を確保しつつ、実務での運用に耐えうる仕様へと仕上げています。

システムの裏側では、生成AIやユーザー辞書の連携といった複雑な処理を組み込んでいますが、ユーザーインターフェースはシンプルに設計することで、検索速度や操作性といった実用面での使いやすさも考慮しました。

また、PoCの過程で挙がった新たなアイデアを継続的に検証できるよう、新機能専用の検証画面を別途用意。専任の担当者が新機能を試用・評価できる環境を整え、現場の声を取り込みながら改善を続けられるサイクルを実現しました。

結果 過去事例を“活きた知見”へ。日々の意思決定を支える検索基盤を実現

本プロジェクトでは、検索結果の妥当性に加え、速度や操作性にも配慮した実用的な事故事例検索システムを構築しました。全社展開後は日常業務に自然と組み込まれ、過去の事故情報が“活きた知見”として意思決定を支える基盤となっています。

また、本取り組みは、クライアント企業にとって初めての「生成AI × 社内データ」活用事例として注目を集め、今後の業務効率化や他領域への展開も視野に入れた検討が進んでいます。単なる検索システムの導入にとどまらず、組織全体にAIによる知見の活用を促す重要な一歩となりました。

このプロジェクトを担当したメンバー

金城 智弘

データ事業開拓部 部長 / 博士(工学)

金城 智弘

株式会社リネア入社後、非金融業界を中心にデータドリブンなアプローチによる分析業務を担当し、営業からデータ分析まで幅広く携わっている。ラボ契約など多様な契約形態の経験を通じて業務理解とドメイン知識を深めながら、課題解決に向けた提案を行っている。業務理解を起点に、構造的なデータ設計・分析を得意とする。

瀧本 真裕

データ事業開拓部 副部長 / 博士(理学)

瀧本 真裕

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士号を取得後、国内外の研究機関にて素粒子論的宇宙論の研究に従事。株式会社リネアに入社後は、非金融業界を中心にデータ分析業務に携わる。データ分析からAIモデル開発までを一貫して行える技術力を強みとしている。

林 憲作

アプリケーション開発部 システムエンジニア / 博士(コンピュータ理工学) 

林 憲作

会津大学大学院コンピュータ理工学研究科 コンピュータ・情報システム学専攻にて博士号を取得後、株式会社リネアに入社。高い技術力を活かし、アプリケーション開発を中心に、データ分析やAI開発まで幅広く担当。プロジェクトマネジメントにも携わり、技術領域だけでなくお客様とのコミュニケーションや折衝にも強みを持っている。

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