AIモデル開発・導入支援 / シミュレーション / 意思決定支援

収穫量の予測誤差を約10%→約2.6%へ低減。調達コスト削減に貢献

業種
農作物調達・販売
企業形態
法人
相談部署
研究開発部門
従業員数
200~250人
実施期間
2014年~2016年
収穫量の予測誤差を約10%→約2.6%へ低減。調達コスト削減に貢献
相談背景
  • 従来手法では農作物の生産量・収穫量の精緻な予測ができない
  • 収穫量の予測精度が高くないと、追加調達などでコストが増加してしまう
  • 収穫量予測に活用できるデータ量が限定されており、品質もそれほどよくない
  • データ分析ができる人材が不足している
実施内容
  • 収穫量予測現場のヒアリングとデータ収集
  • 天候・圃場データ・収穫実績などを活用した収穫量予測モデルの開発・評価
結果
  • 従来予測では10%前後(最大20%以上)だった予測誤差を平均約2.6%(最大10%)まで低減
  • 高精度な収穫量予測に基づき追加調達計画を立てることが可能となり、コスト削減に貢献
  • データ分析作業から、精度向上に有効な特徴量の発見とその効果についての知見を獲得・提供

相談背景 収穫量予測の不確かさが、調達コストの増加を招いていた

お客様は、農作物を安定的かつ大規模に調達するため、収穫量を事前に把握できる予測手法の確立を目指していました。予測精度が低い場合、高額な追加買い付けが発生し、調達コストが増大する可能性があるためです。

しかし、露地栽培の農作物は天候や土壌状態などさまざまな要因の影響を受けるため、高精度な収穫量の予測は非常に困難です。実際、当時使用されていた予測手法では平均で約10%、年によっては最大で25%程度の誤差が生じていました。

さらに、生産者ごとの作業記録には、記録形式のばらつき、欠損データや誤記入と見られる項目が多数存在するなど、精緻な分析に必要なデータが十分に整っているとはいえない状況でした。

こうした背景を踏まえ、リネアは以下の取り組みを提案しました。

  • お客様の保有データを用いた高精度収穫量予測モデルの開発・検証

実施内容 作業記録データを基に、収穫量予測モデルを構築

上記の相談を受け、以下のステップでモデルの構築および性能検証に取り組みました。

ステップ1:対象分野の調査・研究

当時リネアには、農作物の栽培に関する取り組み実績がありませんでした。そのため、一般的な栽培方法や気候の影響といった地域特性、栽培されている品種ごとの特性などを幅広く調査し、以降で扱うデータを理解するための基礎知識を整理しました。

あわせて、収穫量の予測モデルに活用できると考えられた、生育に影響を与える要因に関する研究論文や農業分野の各種基礎理論の調査も並行して実施。ヒアリング時に確認すべき項目の洗い出し、仮説の構築、活用可能なデータ分析技術候補の選定を行いました。

ステップ2:現状のヒアリングと蓄積データの受領

お客様へのヒアリングを通じて、詳細な要望内容の整理および既存の予測精度を把握しました。また、数年分の年度別作業記録データも受領しました。その結果、得られた示唆として以下が挙げられます。

  • 現状の予測精度はおおむね10%前後だが、20%以上の誤差が生じる年もある
  • 提供データセット以外に、契約農家ごとの特性を考慮した分析が必要
  • 数%の予測誤差が数億円単位のコスト増加につながる可能性がある
  • 納品量確保が目的のため、圃場・地区単位への対応は不要で、総収穫量の予測が求められている
  • お客様は精度向上が難しいことは認識しており、セカンドオピニオン的な位置づけでの利用を想定している

ステップ3:データクレンジングの実施

本プロジェクト向けに抽出された年度別の作業記録データは、約100項目×約4,000名生産者におよぶものでした。しかし、欠損データが多く、記載形式にもばらつきが見られたため、大掛かりなデータクレンジングを実施。その後、予測モデルに使用する約20項目を選定しました。

このステップは一般的なデータ分析工程の一部ですが、データ取得方法や取得状況に大きく依存するため、背景情報も含め丁寧な確認が求められました。

ステップ4:収穫量予測モデルの構築・評価

次のステップとしては、収穫量を予測するニューラルネットワークを用いたモデルを設計し、過去データを用いた学習を実施。構築したモデルによる予測結果と実測データとの比較により、予測精度を評価。年度によってばらつきはあるものの、平均誤差は約2.6%、最大でも約10%となる予測結果が得られました。

ステップ5:構築モデルの成果報告・フィードバック

構築したモデルの評価結果をお客様に報告し、有効性を確認するとともに、フィードバックをいただきました。

1.一部年度での予測精度の課題
  • 一部、予測精度が低かった年度があったが、全国的に収穫量が増加した年であり、お客様の従来手法でも予測誤差が大きかった
  • モデルは作業記録データを基に設計されていたため、今後はその他の影響要因の追加を検討
2.新たな指標の発見
  • 通常は使用されない指標が、有効な特徴量として機能することが判明
  • お客様からは「合理性があり、有用な知見」として高評価を得た
  • この指標は、従来は測定が難しかった値の代替として活用可能
  • 現場への導入も容易であるため今後の使用が期待される

ステップ6:さらなるモデルの高度化への取り組み

ステップ1〜5までは、わずか3カ月という短期間で実現し、さらなるモデルの高度化を検討する運びとなりました。しかし、農作物の収穫は年に1回のため、翌年度の収穫量データが集計されるまでの間は一時的に期間を空ける必要がありました。

そしてモデル構築から1年後、データが整ったタイミングで連絡をいただき、ステップ2〜5のプロセスを再度実施。新たに1年度分のデータを追加し、前年度に受けたフィードバックから、さらなる改善に取り組みました。

結果 収穫量予測の平均誤差を約2.6%まで低減し、追加調達発生時のコスト削減に貢献

ニューラルネットワークを用いた収穫量予測モデルにより、従来は約10%(最大20%以上)であった予測誤差を平均約2.6%にまで抑えることができました。予測精度の向上により在庫確保の見通しが立てやすくなり、追加調達に伴うコスト削減が期待されました。

  • 従来予測では10%前後(最大20%以上)だった予測誤差を平均約2.6%(最大10%)まで低減
  • 精度の高い収穫量予測結果に基づく追加調達計画により、調達コスト削減に貢献
  • データ分析作業を通じて、有効な特徴量の発見とその効果に関する知見を獲得・提供

本件は、農業分野の複数案件を含む大規模プロジェクトの初期段階の取り組みでした。そして後に、同様の取り組みが他の農作物(トマト、大根、キャベツなど)にも横展開されることになります。分析対象データにセンサーデータなどを追加することで予測精度のさらなる向上を図るほか、構築したモデルを農家が活用できるよう、データ記録および予測結果を可視化するアプリケーションの開発にも発展していきました。

このプロジェクトを担当したメンバー

久須見 健弘

経営戦略本部 ビジネスデザイナー

久須見 健弘

広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻を修了後、システムコンサルティング会社に入社。株式会社リネア入社後は、金融市場系パッケージの開発に従事。経験を活かし複数のビジネスデザインを手がける。その後は農業関連のプロジェクトを経て、近年ではSociety5.0をはじめとした国の研究開発プロジェクトに携わり、新領域での事業開拓を推進している。

金城 智弘

データ事業開拓部 部長 / 博士(工学)

金城 智弘

株式会社リネア入社後、非金融業界を中心にデータドリブンなアプローチによる分析業務を担当し、営業からデータ分析まで幅広く携わっている。ラボ契約など多様な契約形態の経験を通じて業務理解とドメイン知識を深めながら、課題解決に向けた提案を行っている。業務理解を起点に、構造的なデータ設計・分析を得意とする。

この実績の関連サービス

  • AIモデル開発・導入支援

    企業の課題に合わせて、AI技術の選定や導入、開発をサポート。業務自動化や研究開発プロセスでの活用を支援します。

  • シミュレーション

    市場変動・需要予測・投資リスクなどをシミュレーションして、意思決定を支援します。

  • 意思決定支援

    市場動向やお客様社内のデータを基に、売上やコスト、成長可能性などを予測。経営・組織・投資の意思決定を支援します。

掲載実績以外にもお伝えできる情報が多くあります。
お気軽にご相談ください。

お客様向けの詳細事例や概算費用は個別にご案内可能です。お気軽にお問い合わせください。

まずは相談してみる

「課題の解決方法がわからない」「リネアでできることを知りたい」などお気軽にご相談ください。

リネアにできることがわかるお役立ち資料

リネアが提供するソリューションを詳しく説明した資料をダウンロードいただけます。