意思決定支援

ESG戦略の意思決定を支える数理分析を実現

業種
環境事業
企業形態
法人
相談部署
IT企画部
従業員数
3,500~4,000人
実施期間
2023年6月~2023年11月
予算
200~250万円/月(ラボ契約)
ESG戦略の意思決定を支える数理分析を実現
相談背景
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)への社会的関心が高く、企業としても対応を検討中
  • 社内ではESG施策に対する反発や懐疑的な声があり、推進が困難
  • 社内の理解と納得を得るための定量的な分析結果が必要
  • ESGへの取り組みを促進するために、有効なESG施策を明らかにし次の一手を導きたい
実施内容
  • ESG関連の国内外のレポート・論文を調査し、非財務指標が企業価値に与える影響を検証
  • 定量的な分析のために、財務・非財務を含む数百の指標データを収集
  • DML(Double Machine Learning)を用いた因果推論により、非財務指標の企業価値への影響を定量評価
  • 数百の非財務指標を網羅的に検証し、指標ごとの影響度とその信頼区間を算出
結果
  • 分析により、影響の大きな非財務指標が特定され、ESG戦略に重要な判断材料を提供
  • 特に、情報開示に関するある指標が、PBR向上に寄与することが示唆された
  • ESG施策の有効性を定量的に示すことで社内への説明力が向上し、関心が高まった
  • 社内での次のアクションが明確になり、データ収集・開示に向けた準備が加速

相談背景 ESG推進に向けた社内説得が壁に

CSR推進部門から、ESG(環境・社会・ガバナンス)の推進に関して、社内の理解と納得を得ることが難しいという相談が寄せられました。ESGの重要性は経営層でも一定の理解があるものの、現場レベルでは懐疑的な意見も多く、推進にあたっては説得材料が求められました。

そこで、ESGの取り組みが企業価値、特に時価総額やPBRといった指標に対して本当に効果を持つのかを、数理的なアプローチで検証し、説得力のある裏付けを得たいという要望をいただきました。さらに、有効なESG施策を明確にし、社内全体で推進していくムーブメントを形成するための根拠が求められていました。

実施内容 データに基づくESG施策の有効性評価

上記の課題やニーズを踏まえ、以下のステップでESG施策の有効性評価に取り組みました。

ステップ1: 関連情報の調査と分析手法の検討

取り組みの出発点として、国内外のレポートや研究論文を幅広く調査しました。その中で、ESG活動が機関投資家の投資判断に影響を与えていることや、非財務指標が時価総額に一定の影響を及ぼしていることが確認されました。時価総額は財務要素だけでなく、ESGなどの非財務要素からも影響を受ける複雑な指標であり、その影響を正確に分析するには他要因の影響を除く必要があります。

そこで本プロジェクトでは、「因果推論」を用いて、特定の非財務指標が時価総額に与える因果的な影響を定量的に評価する方針を採りました。因果推論では、「もしその指標が異なっていたら」という仮想状況(反実仮想)を推定し、相関ではなく因果関係を明確にします。

一方で、先行研究などで用いられている因果分析を含む定量的な手法の多くは、使用される変数が限られていたり、重回帰モデルなど比較的単純な分析にとどまっており、精度や柔軟性の面で課題がありました。

これらを踏まえ、本プロジェクトでは精緻な因果推論を行い、企業価値に強く影響する非財務指標を特定するため、信頼性の高いデータの収集と適切な分析手法の選定が不可欠であると考えました。

ステップ2: 因果推論に向けた高品質データセットの構築

実証的な分析を行うためには、十分な量と質を備えたデータが求められました。そこで本プロジェクトでは、オープンデータに加え有料データベースも活用し、国内上場企業の財務指標・非財務指標についての数百種類に及ぶ指標に関するデータを収集しました。

収集したデータには、欠損値の処理や一部の指標のスケーリング、形式の統一などを実施し、因果推論に適した高品質なデータセットへと整えました。これらの前処理は、精度の高い推論結果を得るために行われました。

ステップ3: 因果推論による非財務指標の影響分析

分析には、DML(Double Machine Learning)を採用しました。DMLは、機械学習の柔軟性と統計的な厳密性をあわせ持つ手法で、多数の特徴量(変数)を扱いながらも、因果推定の信頼性を定量的に確認できる点が特徴です。企業価値のように複数の要因が複雑に絡み合うケースにおいても有効です。

本プロジェクトでは、企業価値に対する非財務指標の因果的な影響を明らかにすることを目的として、この手法を採用しました。分析では、他のすべての要素を固定したうえで、対象の非財務指標だけを変動させた場合に、結果(時価総額やPBR)がどのように変化するかを算出しました。

このようなアプローチにより数百にのぼる非財務指標を網羅的に検証し、従来の単純な回帰分析では見落とされがちだった重要な示唆を得ることができ、企業価値への影響が大きい非財務指標を特定できました。

ステップ4: 企業価値に寄与する非財務指標から導く改善アクション案の提示  

分析の結果、企業価値に強く影響している非財務指標がいくつか明らかになりました。その中から、企業の取り組みやすさの観点から、具体的なアクションにつなげられる指標を選定しました。特に注目されたのは情報開示に関するある指標で、企業側の努力によって改善が可能であると同時に、投資家の情報判断を助けることでPBRの安定的な評価をもたらすと期待されました。

結果 ESG戦略の意思決定を後押し

この取り組みによって、企業価値に影響を与える非財務指標が数字として明らかになり、ESG施策を選ぶための重要な判断材料を得ることができました。指標ごとの影響度を具体的な数値で示すことで、社内での説明にも説得力が増し、関係者の理解や納得を得るための根拠として活用されました。

さらに、特に注目された情報開示に関する指標については、社内の関心が高まり、実現に向けた方針検討や関連するデータの収集、開示に向けた具体的な準備へと動き始めました。

このプロジェクトを担当したメンバー

金城 智弘

データ事業開拓部 部長 / 博士(工学)

金城 智弘

株式会社リネア入社後、非金融業界を中心にデータドリブンなアプローチによる分析業務を担当し、営業からデータ分析まで幅広く携わっている。ラボ契約など多様な契約形態の経験を通じて業務理解とドメイン知識を深めながら、課題解決に向けた提案を行っている。業務理解を起点に、構造的なデータ設計・分析を得意とする。

瀧本 真裕

データ事業開拓部 副部長 / 博士(理学)

瀧本 真裕

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士号を取得後、国内外の研究機関にて素粒子論的宇宙論の研究に従事。株式会社リネアに入社後は、非金融業界を中心にデータ分析業務に携わる。データ分析からAIモデル開発までを一貫して行える技術力を強みとしている。

林 憲作

アプリケーション開発部 システムエンジニア / 博士(コンピュータ理工学) 

林 憲作

会津大学大学院コンピュータ理工学研究科 コンピュータ・情報システム学専攻にて博士号を取得後、株式会社リネアに入社。高い技術力を活かし、アプリケーション開発を中心に、データ分析やAI開発まで幅広く担当。プロジェクトマネジメントにも携わり、技術領域だけでなくお客様とのコミュニケーションや折衝にも強みを持っている。

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